真夏の憧れアウトドア飯 ~デイキャンプ用品紹介~

梅雨も明け、夏らしさも本番。眠りから覚めるとじんわりと汗ばみ、起き上がる動作に空気が纏わりついてくるような感覚。
部屋の外から蝉の鳴き声が耳の奥まで響き、窓を開けると太陽の日差しが矢のように僕の体を突き刺す。
「そうだ。先生に会いに行こう。」
そう思い立った僕は、車のキーを手に取り家のドアを開く。先生は元気だろうか。
青々と成長した木々が生い茂る田舎道を通り抜ける。夏を大自然は喜んでいる。
到着したのは私の地元。懐かしい道。懐かしい街並み。懐かしい実家の団地。
荷物を降ろし先生に会いに行く。先生は実家から車で数分の所に住んでいる。
「やぁ。こんにちは。」
挨拶も早々、先生は言う。
「時間は無限ではないよ?行こうか。」
先生の車に荷物を積み込み、出発。
本日のストーリーが始まる。
さぁ。ちぇけら。
先生の下準備
先生。
僕はこういった環境下になると彼の事を先生と呼ぶ。
先生の正体は高校時代の同級生で、出会って15年少しになる所謂旧知の中というものである。先生の趣味はアウトドア。キャンプやDIYが先生の得意分野であるのだ。
そんな先生の趣味にあやかり、私も時々キャンプやバーベキューに参加させてもらう。先生の私物のアウトドア用品が充実しているため、私は借り物で悠々と時間を過ごさせていただくわけだ。なんとも贅沢なものである。
アウトドアは簡単なものから壮大なものまで。つまり情熱の度合いによって姿やクオリティが大きく変わる。今回は私が先生を急に誘ったことと、あまり気力を使いたくないという我がままでインスタントなものにしていただいた。
話を当日に戻そう。私たちは車に乗り込んで1時間ほど走った。
真っ青に晴れていた空は白く曇り行き、太陽は見えない。しかし不思議と雨は降らないであろうと確信が持てる。そんな具合の天気である。
私達はとある河原に降り立った。人は誰もいない。ただただ風が草木を撫でる音がするだけ。
先生は厳選した持ち物の中から本日のキャンプブースを設営する。

何度も言うが全て先生の私物である。私は設営の手伝いをするのだが、アウトドアグッズというのはイス1つテーブル1つにしても、中々慣れていないと簡単には扱えない代物だ。
すると先生は焚火台を組み立て、角材を敷き火をつける。私は座り心地の良いチェアーに腰掛け、それをただただ眺める。

バーナーで炙るのは角材なのか、はたまた汚れてしまった私の心なのか。その炎をじっと見つめる私の眼は、まだ立ち昇ってはいないスモークがかかったかのようだ。
数分すると、先生が愛情を込めて灯した小さな火の粉は大きな炎に成長し、角材を包み込み天にも昇ろうかという勢いで命を燃やす。生き急ぐなよ。のんびり燃えればいい。

目の前の炎とその奥にはそれを打ち消す大地の水流。自然のコントラストがまさに幻想的である。ビルに囲まれた大都会やパソコン画面と睨み合う職場などでは感じることのできないエレメントに、私はすっと体が溶け入るような感覚に包まれたのである。
先生の魔法の粉
空腹は限界を迎えた。
朝一番に食べたパンはすでに胃を通り過ぎ、消化されて塵になった。体が新しいエネルギーを求めている。時刻は14:00を回った頃。
今回は簡単に手軽にやりたいと要望したので、食材は少なめ。2人なのでそれで十分である。先生はその中でもメイン食材の調理にさっそくとりかかる。
いわゆるステーキ肉だ。行きにスーパーで購入した安いステーキ肉であるが、これが見違えるように変貌するのである。
先生は何やら怪しげな粉を取り出した。そしてそれを肉に振りかけ言う。

「これを試したことはあるかい?そうか…。きっとすぐに慣れるから安心しておくれ。君もその内、これが欠かせなくなるよ。」
先生が肉にした味付けはこれだけ。その代わり肉を火にかけてからも、その魔法の粉なるものを上から更に振りかける。

どこで購入したのか、食べるとどうなるのか、全ての質問に先生は答えず、ただただ口角を上げて微笑む。
じっくり。じっくりと焼き上げていく肉と魔法の粉への興味に僕は心を奪われていく。

もう少しだ。鼓動が高鳴るのを感じる。瞳孔が開くのを感じる。
先生が度々肉を持ち上げ火の通りを確認してくれる。数回その行為を行った後に僕の方を振り返り「完成だ。」とつぶやいた。
出来上がったステーキを先生は紙皿に移してくれ、
「熱いうちに食べるように。そっちの方がより君は粉の実感を味わえるだろう。」と言う。

口の中によだれが充満していくのを感じる。僕は急いで割り箸を割き、肉にかぶりついた。
やわらかい肉の感触と、ジューと溢れ出る肉汁。その熱を持った香りを感じた時に味が追いついてくる。
「うまい…。」
僕は無意識にもその言葉を発していたと同時に、世界が崩れるような衝撃を感じていたのだ。まさに魔法の粉である。肉の本来の味、本来の香りに、魔法の粉が何倍もの厚みをもたらしている。
その時、先生の言葉がふと過ぎる。
「君もその内、これが欠かせなくなるよ」
知りたい。
この魔法の粉の正体が。この魔法の粉を僕の物にしたい。目が血走るのがわかった。全身の血が逆流していくかのようだった。
自らを落ち着かせるために私はコーラを流し込む。普段お茶しか飲まない私だが、こんな日にはコーラと決めている。案の定私の選択は正解だった。コーラが私の熱し上がった体を冷ましていく。冷静になる。
しかし魔法の粉への興味は消えない。どうにかしてその正体が知りたい。
先生は今、次の肉と野菜を焼いている。そっちに夢中だ。今ならきっと大丈夫。きっと。
僕は先生の視線に細心の注意を払い、先生の魔法の粉に近づき、手に取った。

ほりにし…。だと。
先生の提案
時は数時間遡る。ここは近郊のアウトドアショップ。もちろん先生の行きつけである。先生から出発前に提案があったのだ。
「どうだい?君ももうアウトドアは2、3回経験しただろう。もう初心者ではないんだ。自分専用のグッズの1つでも買ってみるのがいいんじゃないか?きっとその方が愛着を持てるよ。」
それに関しては私も同感であった。私も度々行う「車中泊の旅」のグレードアップを考えていた所で、そちらと併せて使用できるものがあればいいと思っていた。

店に入ると何から何まで欲しくなるもので、ついつい夢中になってしまう。しかしアウトドアグッズは高いものばかり。良いものは高い。これは世の中の理なのである。
さて、私はその中でも購入する物は決めていた。マグカップである。これなら車中泊の旅に出ても、旅先でコーヒーをすすることが出来るだろう。出来れば耐熱の容器がいい。後々にバーナーを購入することも頭に入れて。
数多く何種類もある中、私がこの先お気に入りとして持ち歩くだろう物を決めた。

ペトロマックスというブランドらしい。黒いフォルムがカッコよく感じ、これを選んだ。ホーローという材質らしく、これをそのまま火にかけることも出来る。
コレを手に取った時に、旅先でこれにコーヒーを注ぎバーナーで火を通す。そんな未来予想図が脳裏に描かれたのだ。
「どうだい?それのデビュー戦に僕がお湯でも沸かさせてもらおうかな?」
先生は言う。もちろんその言葉に甘えることにする。
先生はバーナーを設置する水平な場所を探す。だが今は荷物が散らかっており中々見当たらない。すると先生は荷物の中から何やら新しいグッズを取り出した。


パタゴニアのステッカーが貼られたシルバーのそれをワンタッチで広げるとミニローテーブルに早変わりした。先生は水平を見つけ出すことをやめて、水平を作り出したのだ。
その水平にガスバーナーを設置し、先生はお湯を沸かしだした。この一作業一作業に私は先生のアウトドアへの愛を感じずにはいられなかった。

さて、お湯自体は数分で沸き上がった記憶である。ファーストドリンクを考えていたのだが、先生のストックから紅茶をいただくことにした。そのティーパックをマグに入れ、お湯を注ぎ込む。

自分の購入したこれからの旅の相棒になるだろうマグカップと、目の前の清流を見ながら大自然を感じれるロケーション。
僕の心は浄化されていく。こんなにもリラックスできたことは最近あっただろうか。
都会の喧騒や会社の憂鬱を今は全て忘れて、この味とこの風に包まれていたい。
まるで川のせせらぎのように時刻はゆっくりと進み、夕方になるまで私達はただただこの一時に身を任せていたのだった。
先生の布石
空は相変わらず顔を隠し真っ白な雲に覆われていた。しかし夕刻になると徐々に暗くなるのを感じることが出来る。時計を見ずともタイムリミットが迫っていることを気付かずにはいられない。
一日は必ず始まるが、必ず終わる。そしてまた新しい一日が巡るのだ。
荷物を片付け車に積み込んだ。そよ風と川の流れにさよならを告げ、私達はこの場所を後にした。
夏の真ん中に作り出した涼しげなスローライフはこれにて終了。
だがしかし、今日という日は次への布石であり予習であり予行である。この1週間後にまた再開することを先生と約束するのであった。
次回はまた違った場所で違う環境にてアウトドアタイムを奏でる。来週はどんなアイテムやテクニックで先生は彩ってくれるのか。
実に楽しみである。
いえす。TKC。第一章 完

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