真夏の憧れアウトドア飯②~デイキャンプ用品紹介~

夏はじりじり一段と濃く、更にたくましさを増して僕を弱めつける。
快適な室温に保たれた楽園を一歩出ると、そこは灼熱と化したアスファルトが支配するジャングル。ただ歩き出すことさえ躊躇わせる夏という怪物は、まだまだ日本を退くつもりは無いようだ。
しかしこの世界にもどこかに、僕たちの周りに探せばどこかに、この怪物の魔力が弱まる土地が所々存在するらしい。所謂“避暑地“と言われる場所だ。
そんな所でひんやりと涼めることが出来たらどんなにいいだろう。僕は寝っ転がりながらいつも通り、僕の脳みその中へ深く深く潜っていく。
「涼をお求めかい?」
僕が怪物から逃れるために行った現実逃避の妄想に、唐突にキャスト出演してきたのは先生だった。
僕はすぐさま意識を取り戻し、携帯を手にして先生にメールを送る。もちろん現実の世界でだ。
「夏を遠ざけることが出来る場所はありますか?」
「一時的ではあるが、可能だ。では、そうしようか。」
どうやら夏の怪物の足元を抜けて、目の届かない場所へ逃げることが出来そうだ。
先生とのアウトドア記録。二作目。
さぁ、ちぇけら。
真夏の憧れアウトドア飯 ~デイキャンプ用品紹介~
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旅の仲間達
目覚めたのは早朝4時。夜明けはまだである。辺りは真っ暗で、夜がしっかりと覆っている。
自分の準備を済ませ、先生を迎えに行くため家を出たのは5時15分。この時間にもなると空は白みがかり、町は朝を迎える支度を始める。
先生の家に到着する。
「さぁ。怪物は手強い。しっかりと備えないとね。」
先生と僕はせわしなく荷物を詰め込む。大量の武器を蓄えた僕の車はさっそく避暑地に…という訳ではなく少し寄り道。もう一人、怪物と応戦するために仲間を呼んでいた。
走り出して十数分といった所だろうか。馴染みのある顔を朝靄の中に見つける。
「やれやれ。夏と国語辞典ってのはいつも暑(厚)すぎるもんだな。」
博士は突き刺すような朝の日差しを手で隠しながら現れた。先生が言う。
「では、怪物が本格的に目覚める前に、この地を去ろうか。」
僕は車のキーを回した。僕と先生と博士。3人の即席機動隊は夏から遠ざかるべく、走り出した。
博士の秘密道具
2時間ほど運転をした頃だろうか。山道が険しくなる。道が細まり、砂利道になる。それと引き換えに徐々に川の音が聞こえ始め、気温が下がっていくのを感じる。
怪物が目覚める少し前に、足元から少し離れれたようだ。しかしまだ朝。怪物が目覚めるのはこれからさ。
とうとう僕たちは目的地に到着する。山間の木々を分かつように一本の清流が流れている。
すでに僕たちと同じことを考えている人は多いらしく、先客がちらほら。僕たちは邪魔にならぬ様に通路を確保し車を停めた。
車から荷物を下ろすなり先生が指揮し、今日の本陣を構える。まずはタープを張る。これで日差しも怖くない。
まだまだ今日は長いのだ。ゆっくりいこう。

お気付きだろうか。今回のこの話に彩を添える写真はどことなく美しい。それの答えは博士にある。そう、博士は写真を撮ることに生きる価値を見出している。数年前、雪山のロッジで博士は言っていた。
「世の中は流れている。街はもちろん、太陽や雲、空を飛ぶ鳥も、動いていないように見える草木ですら。常に流れているんだよ。いつも。いつも。でも僕がシャッターを押したこのフィルムの中だけは、この中の世界だけは、その流れの一瞬を切り取ることが出来るんだよ。そこは静止している世界なんだ。」
博士の撮る写真はどことなく朧気だ。そういった博士の想いがレンズを通し反映されるのかもしれない。
その息吹を吹き込んだ写真たちが今日のこの文章を染め上げてくれる。実にいいものだ。実に。
先生の魔法の粉再び
先生はというとタープを張り終え、次の工程に差しかかる。
まずは火を育てだした。調理には欠かせない存在だ。先生が生んだ小さな火の粉はやがてたくましい炎となり燃え盛る。それと同時に僕の心にも、興奮という炎が燃え上がるのを感じた。
先生はクーラーボックスから食材を取り出す。先生の代名詞ともなったステーキ肉だ。先生はそのステーキ肉になにやら振りかけている。前回も振りかけていた魔法の粉か?いや、今回は違う別の物らしい。

先生は網に肉を移してからも追い粉をする。どうやらこの行動がステーキ肉を違うステージへ押し上げてくれるようだ。あとはじっくり。ただただじっくり。
僕はというと作業して熱せられた体を冷やすべく一休み。粋なものである。目の前を流れる清流は、山から生まれたばかりのせいか冷たく、僕の足首を纏う。夏の怪物は水性質系の攻撃には弱いようだ。

川から上がると先生の焼いたステーキ肉が焼きあがっていた。
「さぁ、冷めないうちに食べなさい。元気が出るよ。」
それは魔法の粉のせいなのか。一口、また一口と口に運ぶと、その旨味と後から追ってくる香りに僕の脳はとろけてしまいそうだ。
どうやら博士も同じことを考えているようだ。まるで目の焦点が合っていない。

しかしどうやら博士の撮る写真の焦点はぴったりと合っているようだ。これはこれで粋なもので、この原始的な大自然と、博士の持つ最新技術の人工物が絶妙に交差する。奥深い。
さて、気になるのは魔法の粉の正体。今回のこの魔法はどのような呪文なのか。先生は別の調理に取り掛かった。隙はある。今しかない。僕は細心の注意を払いながら先生の背後に回り込み、魔法の粉を手に取り少し離れる。

黒瀬のスパイス。なるほど。
博士が用意したとっておき
食材の調理は滞りなく進んでいく。先生はクーラーボックスから僕の要望していた「赤いウインナー」を網の上に踊らせてくれた。僕はそのウインナーを大事に育てる係を仰せつかった。
ゆっくり転がし、様々な角度から炎に。やはりウインナーというものは、お弁当、お皿、そして網の上、いつの時代も全てのロケーションに溶け込む極上の最高食材である。

僕も何か貢献しないとと、家から持ってきたチーズをアルミカップに溶かした。絶妙に好評である。肉やウインナーやポテトチップスを付けて食べる。バーベキューというのは自由なのだと知る。
奥の肉は先生が昨晩に特製のタレで漬け込んだ豚肉である。実に味が染み込んでいてたまらなかった。
ここで博士も動く。博士が試しにと買ってきた激安のバーベキューコンロを取り出し、火をつける。百円均一店で購入した商品らしい。さすがに百円ではなかったらしいが。激安コンロに火を付け、こちらでは鶏肉を焼き始めた。

サイズは小さいし、炭に肉が直接付いている気もするが、使い捨てというお得感と手軽さを考慮するとなかなか良品ではないだろうか。博士の握るシャッターにも力が入る。
牛、豚、鶏。それぞれを食す僕たち。さながら肉の王者統一戦だ。
先生のDIY教室
時は少し遡る。先生が網にステーキ肉を乗せた直後である。先生が何かに気付く。
「どうやらテーブルが少ないな。有意義に過ごすためにはもう1つくらい欲しいものだね。よし、無いのなら新しく作ろうか。」
僕の脳にハテナマークが浮かぶ中、先生は早速準備を始めた。そして僕に指示を出す。
「森の中から枝を取ってきてくれないか?太さはそうだな…。2センチ程度の割としっかりしたものだ。」
僕は先生に言われるがまま森の中を彷徨い枝を探す。果たして先生は枝で何をしようとしているのであろうか。僕は枝を拾い、より良さげな枝があれば取り換え、それを繰り返し先生の元へ帰った。
先生は枝を受け取るとすぐに小型のノコギリで枝を切り出した。

そして先生は車から板を取り出してきて四隅に穴を空ける。これは穴を空ける専門的な工具なのだろう。とても素早く簡単に穴が空いた。僕も手伝うことに。

そして先生は四本の同じ長さにした枝を、板に空けた穴にボンドを流しながらはめ込む。そして少しの間ボンドが固まるまで放置し、完成を待つ。

なんとローテーブルが完成した。少し板が割れた部分があるが、それもまた手作り感があり、愛着が沸く部分なのだ。これでスペースを確保することができた。自分で作った机で食べるアウトドアフードはまた格別なのである。
僕の工作物
僕もDIYとまではいかない工作をすることにした。先ほど枝を拾いに行ったときに少し多めに集めていたのだった。その枝と、僕が事前に用意していた糸を使ってあるものを作ろうと企んでいた。
作ると言っても枝の先に糸をくくりつけてその先に針をつけるだけ。あとはその針にいらない肉でも付ければ、そう、釣竿である。まぁ、こんな即席な釣竿で魚が釣れるとは思わないが。

食事も一息ついた頃、僕たちは川遊びに向かった。先生と博士は着替えだし、川に浸かる準備が万端である。僕は手作り釣竿を持って移動する。

人気もない穴場だが絶景である。先生と博士は冷たい清流に身を任せていた。僕は針が刺さらないよう少し離れた隅っこの岩場から胸を躍らせながら釣糸を垂らす。

意外と釣れるものである。
締めの一品とパティシエ
川遊びで疲れた僕と博士は椅子に座りうだうだと話をしている。僕と博士で再度付けた火はあまりうまく燃えず、それはまるで恋人達の倦怠期の様子に似ている。
その僅かな生ぬるい温度の炭で、博士と僕は意識を朦朧としながら残りの肉をつついていた。疲れて会話も無く、その様子も倦怠期の恋人達のようだ。
しかし先生はその後ろでテキパキと何かを拵えている。先生はバーナーを使ってお湯を沸かし、何やら茹で始め、氷でしめる。僕が先生に依頼していたレシピはウインナーともう1つあったのだ。

素麺。しかも先生はトマトソースをあしらえた。絶品である。まず冷たい温度の食べ物が食欲をそそり、程よい酸味が疲れを癒す。先生には完敗で且つ乾杯である。
これでキャンプ飯は終了。先生はアウトドアクッキングの工程を全て全うした。食材がいなくなり殺伐とした網の上。ならば最後は僕の出番だ。何日も前から計画を練り、数カ所のスーパーを走り回り、買い漁った材料を網の上へ。

そう、バウムクーヘンである。隣にはブラックチョコとホワイトチョコを溶かす。バウムクーヘンとチョコレートの関係は、正に鬼に金棒。外すことの無い最強の組み合わせである。更に僕には秘策があり、クーラーボックスの中に缶詰めフルーツと生クリームを忍ばせている。
焼き色も良いぐらいに付いた所でお皿に移し、2色のチョコと生クリームをかけ、上からフルーツで彩る。

盛り付けは全てを台無しにした。
あれほど香ばしい香りは消え失せ、食欲を衰退させる出来栄えとなった。博士は正直者で、
「僕はチョコのかかった部分を一欠片だけでいいよ。」
と、バウムクーヘンの写真を撮ることも無く遠くの景色を眺めていた。先生はというと意外にもこっそりと何口も食べていた。見た目で損はしているが味はバウムクーヘンなのだ。少し甘ったるさは過剰だが…。
夕刻の足音
時刻は夕方に差し掛かる。お腹も膨れ、遊び疲れた。僕たちは刻一刻と忍び寄る夜の気配に抵抗すべく、最後の一時を楽しむ。椅子を川の中に運び、足を付けて微睡む。先生と博士はお酒を飲んでいたように思う。僕は前回購入したマグカップにコーラを注いで持ってきた。
冷たい清流に足を付けながら飲むコーラ。ペトロマックスのマグカップ。日差しも和らぎ、心なしか虫たちの声も穏やかな気がする。これほどまでにゆっくりと流れる時間があるだろうか。
都会の喧騒、仕事のプレッシャー、人間関係の憂鬱。全てを今、この一時は無にする。全てを今、この一時はリセットしてくれる。言葉はいらないな。

僕たちはどのくらい川のせせらぎの中にいただろう。どんな素敵ないい時間にも終わりは来る。暗くなると山道は危険だ。その前にはこの場所を去らねばならない。
先生がこの夏からの逃避に終了を告げる。僕たちは手分けをして片づけを始める。準備をした時に様子は見ていたので片づけは意外と手際よく進む。ごみはまとめてしっかりと持ち帰る。アウトドアの基本中の基本である。
30分程経った頃だろうか。全てを車に詰め込み、片づけを終了した僕たちは、この風景を記憶するかのように誰からともなく後ろを振り返り、川面を見つめていた。そこにはただただ、川の流れる音色が聞こえるだけだった。
「夏という怪物から逃れることは出来たかい?」
僕はキラキラと川面を反射する光に目を瞑りながら、コクリと小さく頷いたのだった。
僕は声には出さずに呟いた。
いえす。TKC。
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